日本のレトルト食品市場の40%以上を占めているカレー類。それだけ日本の食生活にカレーが浸透している証でもあるが、アメリカ陸軍が開発に着手、1969年に打ち上げられたアポロ11号で一気に有名になったレトルト食品を世界で初めて市販化に成功したのが日本の大塚食品であり、その商品こそが「ボンカレー」だった事実も多大な影響を与えているといえるだろう。
実は「ボンカレー」が誕生したのはアポロ11号が月面着陸した1年半前だった。1968年2月に阪神地区限定で発売され、翌年5月に改良版が全国発売された。アポロ11号の月面着陸は69年の7月だったので、レトルト食品が宇宙食として脚光を浴びる前に、すでに日本の消費者がレトルト食品を体験していたことになる。
小弟が人類初の月面着陸をテレビで観たのは、確か日曜日のお昼時だったと思う。当時、中学校の軟式テニス部に所属、休日練習の後か合間かは定かではないが、学校近くのラーメン屋でその模様を「ぼーっ」と眺めていた記憶がある。
なぜ「ぼーっ」かと言うと、現実味がまったくなかったからで、同級生は、「ぜったいアメリカの嘘だ。作り事だっ!」などと言いながら、やけに興奮して食べかけのラーメンそのままに、テレビに釘づけだった。
数えてみれば、あれから50数年が経った。毎日毎日追いかけていたゴムの白球は、いつの間にか小さく硬い無数の凹みがついた球に変わり、蛇口から飲む水は、コップやぐい呑みに入った「生命の水」(場合によってはキチガイミズ)に変わり、鉄棒が得意なほど痩せていた身体は、メリハリのない寸胴型に変貌した。ひと言で言えば、衰退である。
一方、レトルト食品は発展の一途。内容・容器ともに進化を続け、消費量もグンと伸びた。これぞ日本の技術の賜だ。