仕事が酒類食品業界の記者なので、酒との絆もかなり強い。知らないと取材もできないが、自分でも好きなのでいろんな酒を飲むし、いろんな店に行く。そういった中で、気をつけていることは、「心底酒を楽しむために礼儀を大切にする」ことだ。偉そうに聞こえるかもしれないが、これまで多くの失敗を繰り返してきた自分への戒めでもある。
酒は致酔飲料だけに、楽しさと裏腹に怖さをもっている。普段はもの静かな男が突如、色魔に変身したり、大声で騒いだり、威張りだしたり、暴れたり、泣いたり…。タバコがここまで世の中から嫌われるようになったのは、健康面からだけではあるまい。ポイ捨て、歩きタバコ、食事中の合席でもおかまいなしなど、喫煙者の礼儀の無さも大いに関わっていると思う。酒も礼儀知らずが増えれば増えるだけ、嫌煙権ならぬ嫌酒権の動きが広がるだろう。礼儀知らずとは、大人になっていないということ。礼儀とは多くの社会人がお互いを認め合いながら円滑に暮らすための最低条件だ。礼儀を知らぬ者が酒を飲めば、みかけは大人でも法律で禁じられている未成年飲酒と同じことだ。
昔ながらの居酒屋や、オーセンチックなバーなど、真の酒好きが集まる場所に独りで行くと、自然と礼儀を覚える。亡父は「たまにゃ独りで大勢の中に飲みに行け。いろんなことが分かる」と教えてくれた。合席になると後から来た客が先に会釈をする。先に座っていた客も会釈を返す。先に帰る時も会釈をする。そのうちに打ち解けて話が弾んだりもする。独りで行くから価値がある。大勢の中での独りは弱いし、それだけ周囲を観察するし、気を配るからだ。
適正飲酒とは、もちろん健康への配慮もあるが、礼儀を踏まえた飲酒という意味合いもある。酒は大人の飲み物だ。だからこそ、大人の行動が求められるのだ。